2026年7月号

Women’s Health Media」では、Women’s Health分野の動向を調査・発信しています。本号では、今年5月に発表された資金調達5件・薬事承認5件の事例をご紹介します。

5月の薬事承認事例では、乳がんを対象としたソリューションが多く発表されました。女性で一番多いがんである乳がんについて、既存の治療法が使えないケースや術後の再発に対して、新たな治療法が出てきています。

日本からも、子宮内フローラ検査を通して不妊治療の選択肢を広げる事例が発表されましたので、ご紹介しています。

ぜひご一読ください。

資金調達ニュース

NinaMED: 過活動膀胱向け在宅ウェアラブル治療機器「NiNA System」の開発・事業化へ1,375万ドルを調達

NiNA System ウェアラブル治療機器

画像出典: https://www.meetninamed.com/

NinaMED(オーストラリア)は、1,375万ドル(約21億円、1ドル=155円)を調達しました。

同社が取り組む過活動膀胱は、急な尿意や頻尿に悩む病気で、世界で約5億5,000万人に影響し、とくに女性に多いとされる女性ヘルス領域です。

NiNA Systemは、過活動膀胱のある人が自宅で使える、薬を使わないウェアラブル治療機器です。通院を繰り返したり、注射や手術に進んだりする前の選択肢として、ふくらはぎに装着して治療できるよう設計されています。

これにより、薬の全身的な副作用や、院内での頻回な処置の負担を避けながら治療を続けやすくなる可能性があります。記事では有効性の具体的な数値は示されていませんが、米国とカナダで複数の実現可能性試験が行われています。

NiNA Systemの中核は、上ふくらはぎの浅い位置にある伏在神経を治療標的にした非侵襲の神経調節療法です。トロント大学で見いだされ特許化された標的を用い、在宅での反復治療を可能にする点が特徴で、今回の資金はオーストラリアでの臨床開発、治験機器適用免除申請の準備、事業運営の拡充に充てられます。 *

プレスリリース:https://sprim.net/advanced-licensed-nina-system-for-overactive-bladder/

公式HP: https://www.meetninamed.com/

Oli: 分娩中の母体・胎児を同時に見守る無線ウェアラブルの臨床開発と商用化に向けSeries Aで650万ドルを調達

Oli ウェアラブルデバイス

画像出典: https://www.womenofwearables.com/blogwrite/oli-secures-65m-to-advance-predictive-maternal-and-fetal-monitoring-ahead-of-market-entry

Oli(オーストラリア)は、Series Aで650万ドル(約10億円、1ドル=155円)を調達しました。今回の資金は、オーストラリアと米国の7施設で進む重要臨床試験、TGAとFDAへの申請、国内製造体制の整備、商用化準備に充てられます。

同社のOliは、出産時に母体と胎児の状態を同時に見守る無線ウェアラブルです。分娩中でも体を動かしやすく、医療者は母親と赤ちゃん双方の変化を途切れにくく把握できます。

この仕組みにより、産後出血のような重い合併症に早く気づきやすくなります。初期の臨床シミュレーションでは、医療者の対応開始までの時間を最大58%短縮し、子宮摘出や輸血などの重い処置を最大50%減らせる可能性が示されました。

中核となるのは、10個のバイオセンサーで集めた数百万件規模の生体データを解析する独自のPredictive Maternal-Fetal Signal技術です。分娩の進行に合わせて信号をリアルタイム更新し、産後出血、胎児機能不全、死産リスクなど最大15種類の異常パターンを、発症前から予測することを目指しています。 *

プレスリリース:https://baymatob.com/index.php/news

公式HP: https://www.baymatob.com

Autoimmunity BioSolutions: 自己免疫疾患向けの遺伝子に基づく個別化治療の開発でSeed extensionとして100万ドルを調達

Autoimmunity BioSolutions(米国)は、Seed extensionで100万ドル(約1億5,500万円、1ドル=155円)を調達しました。自己免疫疾患は患者の約8割が女性とされ、女性の健康課題としての影響が大きい領域です。とくに同社が対象に含むループス腎炎は、女性の患者数が男性の約9倍とされています。

同社は、遺伝子の違いに着目して治療を選ぶ個別化治療を開発しています。関節リウマチやループス腎炎、1型糖尿病などで、既存治療が効きにくい人に向けて、病気の悪化と関係する指標を整えることを目指すものです。

この仕組みにより、今の治療で十分な効果が出にくい患者でも、自分に合った治療につながる可能性があります。記事時点では臨床成績はまだ示されていませんが、治療が届きにくかった難治例、とくに多数を占める女性患者にとって新たな選択肢になり得ます。

主力は、可溶性IL7受容体(sIL7R)というバイオマーカーの上昇を正常化することを狙う、遺伝子変異に基づく治療アプローチです。対象となる遺伝子変異は全人口の約50%に存在すると推定されており、今回の資金は、主な適応症である関節リウマチでの動物試験と患者検体の解析に充てられます。 *

プレスリリース:https://www.prnewswire.com/news-releases/autoimmunity-biosolutions-expands-seed-funding-round-and-deepens-family-office-participation-302770302.html

公式HP: https://www.abstherapeutics.com

Omaia: 妊娠中の不安や孤独に寄り添うウェルネス支援プラットフォームがPre-Seedを調達

Omaia(スウェーデン)は、Pre-Seedを調達しました。

妊娠中や産後のこころの不調はWomen's Healthの重要テーマの一つですが、日々の不安や孤独は診察の場だけでは見えにくく、支援が届きにくい課題があります。

Omaiaは、妊娠中の人に向けて、不安や恐れ、先の見えなさを日常の中でこまめに支えるデジタルサービスです。医師の診察の代わりではなく、受診と受診のあいだを埋める“相談相手”のような役割を担います。

記事では、妊娠中または産後に5人に1人の女性がメンタルヘルスの課題を抱えるとされる一方、こうした悩みは通常の医療では見過ごされやすいと説明されています。そのため利用者にとっては、つらさが大きくなる前に気持ちを整理しやすくなり、孤立感を減らしながら継続的な支援につながりやすくなる点に意味があります。

主機能は、妊娠期の情緒的・心理的体験に特化した常時接続型のデジタルウェルネス支援です。臨床ツールではなく、行動変容を促す伴走型プロダクトとして、個別化された継続支援を提供する点が特徴です. *

プレスリリース:https://www.omaia.ai/news-and-blog/pre-seed-wise-round-closed-oversubscribed

公式HP: https://www.omaia.ai

Varinos: 子宮内検査で12億円調達 不妊治療向け展開を拡大

バリノス株式会社(日本、東京)は、Series Dで12億5000万円を調達しました。第三者割当増資と融資を合わせた資金調達で、増資は三井化学やVCのみらい創造インベストメンツ、横浜キャピタルが引き受け、融資にはりそな銀行や静岡銀行などが参加しています。

同社が扱う子宮内フローラ検査は、不妊治療を受ける人向けに、子宮の中の細菌バランスを調べるサービスです。子宮内の細菌環境は妊娠や出産に影響する可能性があるとされる一方、一般にはまだなじみが薄い領域で、検査によって医師が状態を見極めやすくなります。

この検査により、体外受精や胚移植に進む前後で患者ごとの状態に合わせた対応を検討しやすくなり、妊娠につなげるための判断材料が増えます。実績面では、2026年1月時点で400超の医療機関に提供されており、日本産科婦人科学会による全国約600の生殖補助医療実施施設のうち、広い範囲に導入が進んでいます。

同社の子宮内フローラ検査は、ゲノム解析を用いた診断支援ソリューションで、子宮内細菌叢の菌種構成と菌量を評価し、生殖補助医療クリニックでの治療方針検討を支援します。2022年には一部で公的医療保険の対象となる先進医療にも認定されており、今後は国内の全クリニックへの導入拡大を目指しています。

プレスリリース:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC281E50Y6A420C2000000/

公式HP: https://varinos.com/

薬事承認ニュース

Alife Health: 体外受精で胚の選択を支援するAIツールがFDAクリアランスを取得

Embryo Predict 製品画像

画像出典: https://www.alifehealth.com/embryo-predict/

Alife Health(アメリカ、サンフランシスコ)は、体外受精で移植する受精卵の選択を支援する新しいAIソリューションについて、FDAクリアランスを取得した。医師や培養の担当者ごとの見方の違いを減らし、より一貫した判断につなげることが期待される。

もともと受精卵の選択は主観が入りやすく、公開研究では最も良い受精卵の選定で専門家の判断が34.6%食い違い、候補が3個以上ある場合は44%まで上がった。今回の技術は、こうしたばらつきを抑えて選択の質を高めることを狙う。承認の根拠には、米国7施設・440人を対象に、AI支援ありと通常評価のみを比べた前向き無作為化多施設試験が用いられた。

承認されたのはEmbryo Predictで、胚の画像を解析してスコアを示す診断支援ソフトウェアだ。IVFの胚移植前評価で使われ、世界各地の施設で蓄積された数千件規模の胚画像と転帰データから学習している。既存の顕微鏡や画像システムと連携でき、新たな機器を追加せず導入できる。欧州の医療機器規則に基づくCE Markも取得済みで、欧州と英国でも提供されている。 *

プレスリリース:https://www.alifehealth.com/press/fda/

公式HP: https://www.alifehealth.com

AstraZeneca: 転移性トリプルネガティブ乳がん向け新治療DATROWAYがFDA承認を取得

AstraZeneca(イギリス、ケンブリッジ)は、第一三共と共同開発する転移性トリプルネガティブ乳がん向けの新しい治療薬について、米国で承認を取得しました。対象は免疫療法を使いにくい患者で、この集団は転移性トリプルネガティブ乳がんの約7割を占め、これまでは主に化学療法しか選択肢がありませんでした。

今回の承認により、患者にとっては従来治療より長く病状を抑えられる可能性が広がります。臨床試験では、全生存期間の中央値がおよそ2年となり、化学療法と比べて約5か月延長しました。病気の進行または死亡のリスクは43%低下し、腫瘍の縮小が確認された割合も30%から64%に上がりました。

承認されたのはDATROWAY(datopotamab deruxtecan-dlnk)で、TROP2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)です。がん細胞を見分ける抗体に抗がん剤をつなぎ、標的に届いた後に薬剤を放出する仕組みで、転移性トリプルネガティブ乳がんの一次治療で免疫療法の適応がない患者が対象です。 *

プレスリリース:https://www.daiichisankyo.com/files/news/pressrelease/pdf/202605/20260522_E3.pdf

公式HP: https://www.astrazeneca.com/

AstraZeneca: 乳がん治療薬ENHERTUがHER2陽性早期乳がんの術前・術後療法でFDA承認を取得

AstraZeneca(イギリス、ケンブリッジ)は、第一三共と共同開発する乳がん向けの治療薬で、米国FDAからHER2陽性の早期乳がんに対する新たな承認を取得した。今回の承認により、手術前に再発リスクを下げる目的で使う方法と、手術後に再発を防ぐために使う方法の両方で利用できるようになった。

患者にとっては、がんの再発や進行を防げる可能性が高まる点が大きい。手術前の試験では、治療後に乳房やリンパ節に浸潤がんが見つからなかった人の割合が56.3%から67.3%に上がった。手術後の試験では、再発または死亡のリスクが53%低下し、3年時点で再発なく生存していた割合も83.7%から92.4%に改善した。

承認された製品はENHERTU(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)で、HER2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)である。対象はHER2陽性早期乳がんで、術前療法ではDESTINY-Breast11試験、術後療法ではDESTINY-Breast05試験の結果が根拠となった。転移がんだけでなく、治癒を目指す早期段階での治療選択肢として位置づけが広がった。 *

プレスリリース:https://www.daiichisankyo.com/media/press_release/

公式HP: https://www.astrazeneca.com/

Artera: 乳がん患者の治療強度判断を支援するAI病理解析ツールがFDAクリアランスを取得

Arteraは、がんの見通しや治療効果をAIで予測する検査を開発する企業で、早期乳がんの治療方針を決めるための新しい病理画像解析ツールについて、米国FDAのクリアランスを取得しました。診断時の情報をもとに再発の広がりやすさを見極め、治療の強さをそろえて判断しやすくする狙いがあります。

この技術により、化学療法を受けたほうがよい患者と、避けられる可能性がある患者を見分けやすくなります。記事では具体的な改善幅は示されていませんが、患者や利用者にとっては、必要以上に強い治療を受ける負担を減らしつつ、必要な人には適切な治療を選びやすくなる点が重要です。

承認されたのはArteraAI Breastで、デジタル病理に基づくリスク層別化ツールです。対象は早期のホルモン受容体陽性、HER2陰性の浸潤性乳がん患者で、デジタル化した組織画像と臨床変数からAI由来のリスクスコアを算出し、遠隔転移の可能性を予測します。あわせて同社は、前立腺がん向けAIツールで過去にFDAのDe Novo承認を受けており、乳がん用と前立腺がん用の検査では欧州CE Markも取得しています。 *

プレスリリース:https://artera.ai/news/artera-receives-u-s-fda-clearance-for-arteraai-breast-expanding-its-ai-platform-to-breast-cancer

公式HP: https://artera.ai

Arvinas: Pfizerと共同開発した乳がん向け経口治療薬VEPPANUがFDA承認を取得

Arvinas(アメリカ)は、Pfizerと共同開発した乳がん向けの新しい経口治療について、FDA承認を取得した。対象は、ホルモン療法の後に病状が進行した、特定の遺伝子変化をもつ進行または転移性乳がんの成人患者で、次の治療選択肢が限られていた層に向けた承認となる。

患者にとっては、従来の比較対象治療に比べて病気の進行や死亡のリスクを43%下げ、無増悪生存期間の中央値も2.1か月から5か月へ延びた点が大きい。加えて、筋肉注射が必要な既存治療と異なり、飲み薬として使えるため、通院や投与時の負担軽減も期待される。

承認製品はVEPPANU(vepdegestrant)で、ER+/HER2-かつESR1変異陽性の進行・転移性乳がんを対象とする治療薬である。これはPROTAC(プロタック、標的タンパク質分解誘導キメラ)と呼ばれる新しい薬剤クラスで、体内のタンパク質処理機構を利用し、病気に関わるタンパク質を分解する。第3相試験VERITAC-2では、ESR1変異をもつ270人で効果が評価された。 *

プレスリリース:https://ir.arvinas.com/news-releases/news-release-details/arvinas-announces-fda-approval-veppanu-vepdegestrant-treatment/

公式HP: https://www.arvinas.com